ピュアなものに憧れる。不純なものを憎む。
それは自分の中にあって、最も見たくないものだ。
だから、自らを浄化する事を想う。


ピュアである事はあらゆる価値を超える。
音楽でも、文学でも、もちろん美術でも。
あらゆる芸術の中のピュアさを見抜こうとする。
透き通るような光、音、言葉も。



直島に行った。
海が本当に綺麗で、離れていても海の底が見えた。
海を漂う、クラゲや、魚が見えた。
その透き通る水と光の反射に心を奪われた。
小さな島で、どこにいても海の香りがした。
海の音が島全体を包んでいた。今でもあの海の音を再生できる。
波止場をつなぐ橋がキーキー鳴っていた。


日本は島国と飛ばれているけれど、僕は島を知らずに育った。
海を殆ど見る事のない場所で育った。今は東京に住んでいる。海が遠い。
海の音が聞こえない。僕は何も知らない。恥ずかしいぐらい何も知らない。


ああ、ここで作品を作りたいと思った。きっといいものが作れるだろう。
自分に動機があるんじゃない。
そこで作る事で高められるんだ。
僕が作りたいものを作るんじゃなくて、そこと過ごした時間、そこで感じた思いをただ、形にしたい。
素直な気持ちで。そこで得た物を。
形にする段階で不純なものを除き、ピュアに仕立てたい。



直島を去る時、泣きそうになった。
あたりは暗くなり始め、島はすぐに小さくなった。
これが島か、と思った。
なんて愛らしい事。確実に人間の尺度で計れる存在。
見える。
幻想としての故郷。
ああ、これが島か。
確かに21世紀が忘れてきたものだ。
あそこに居ると夢の中に潜ってしまいそうだ。
海の音が耳から離れない。
帰りのバスの中。バスの揺れは海の揺れのようにも思えた。



兄が絵が上手くて、憧れていた。
僕は絵が下手くそで、ずっと劣等感を持っていた。
未だに自分の不器用さに嫌になる時がある。
僕が作ると汚くて、ぐちゃぐちゃしてて、ノイズばっかりで、美しくなくて、不純で、雑で、自分勝手で。


本当に巧さを求めるならば、技術に走れば良かった。
だけど僕の価値観はクオリティーにはなく、シンパシーにあった。
それは多くの価値観と戦わなくてはならない道。
分かってる。嘲笑の的になる事は。


だけど、多くの人と手をつないでいける道でもあると信じている。


宇宙だったら、果てまで飛びたい。
海だったら、深海の底まで潜りたい。
山だったら、須弥山の上へ。


遠くまで行く準備は出来てる。
自分の心を体を信じる。
全く、健康体だ。だから信念を貫ける。
何よりも恵まれた。


「成る」んじゃない。
「行く」んだ。
「成功」じゃない。「道」だ。


人と比べて勝った負けた、良い悪い、賞を取った、取らないそんなもの何の役にも立たない。
どこへ行くんだ? 何になりたい? どうしたい?
憧れる場所だ。そこは立身の先にない。


ずっと憧れを持ち続ける。
目の前の道を作るために。
歩き続けるために。


果てるまで。
いつまでも、いつまでも。
果てしなく続く。最後の指一本が動くまで。
最後の一呼吸まで。言葉を出せなくなっても。



ずっとずっと
ずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっと
ずっと
ずっとずっとずっとずっとずっと
ピュアなものに憧れる。