忘れない

大人になると色々な事を忘れると思っていた。
色々な記憶が薄れる。けれど僕にとっては大人になってから得るものの方が遥かに多く、大きかった。
子どもの頃に思っていたことは幻想だった。

パッションについても同様だ。思春期の時よりも遥かに深いパッションを身に纏う事ができた。


思い出は忘れていても体の中に染み込んでいる。
または僕が出会った人たちの中で生きているという事を学んだ。
歳を重ねていくことで彫刻作品が結晶化するように、人間も結晶化していくのだということが分かった。その意志の強さと、向かうべき場所が問題だったのだ。
いま僕は歓喜の渦の中にいる。
踊れ!
心が踊っている。
いまを大事にすることが、周りの友人や尊敬する人、家族を大事にすることと繋がっている。


本当に嬉しい。
うれしい事が重なると歓喜になる。
ただ待つだけの一時間、涙が出てきた。その人を待つことが嬉しくて、また心のダンスが電撃になった。
今日で4回目。自分の中で数えてる。こっそり。しばらくの間、大事な数字になる。
自分の中ではもう、確実なこと。自分にとって必要な人。確信がある。
言葉の一つ一つが自分の中にすんなり入ってくる。ぴったりする感じ。無理がない。
相手が僕と同じように思ってくれているかは分からない。
けれども自分はどんな形であれ、きちんとした態度で接していくつもりだ。
苦しい。自分の中で忘れたくないものが増えていく。
心が裂けそうになり、自分を制止する。一つのことしか出来ない。だから一つ一つこなして、進んでいくしかない。
欲張りたくても欲張れない。欲しい物も実は少ない。
本当に欲しいものは中々手に入らない。手に入っても、気が付くと指の間から漏れている。
だから苦しい。


あらゆる事が一つになる。楽しいことも喜びも悲しみも怒りも憤りも全て自分の中で肯定出来た。
悲しい事や裏切りを怒りに変えずに済んだ。僕の12人の侍が護った。鬼を殺さずに、修羅も殺さずに許した。



感謝する。
尊敬する。
この世界は捨てたもんじゃない。
最初からの肯定ではなく、否定し、絶望から生まれた肯定。


忘れたくない。
決して忘れたくない。一秒ごとの出来事を忘れたくない。
でも忘れることは逆らえない、避けられない。
僕は必死の抵抗をするのだ。タナトスに逆らい、純なるリビドーを目指す。
生きている限り鳴き続ける。定時刻に鳴き続ける、雀や鳩の様に。

生き続ける限り、鳴き続ける。鳴き続ける限り人間であることを諦めない。
人間はあらゆる可能性を箱に閉まった生き物。僕は可能性を開こうと努力する。
人間存在を高め、広げ、行ききり、深める。そうすることで感謝をする。生まれた事に感謝する。
歓喜を世界に還す。
喜びの歌を歌い続ける。


怒り、悲しみ、いらつき、焦り、妬み、嫉み、本当は全部嫌なんだ。
嫌なことを口に出すことさえ嫌なんだ。愚痴ることも嫌なんだ。
自分が嫌になるんだ。
自分の口は喜びの歌を歌うためにありたい。


好きな人を喜ばせるための言葉を持ちたい。
皮肉はもう、充分です。要りません。



やがて僕も宇宙に還っていく。
こだわりは消える。
胸の中に歓喜だけ持ちつつ。