狐と熊

熊は森中で恐れられていることを知っていた。
だから彼は誰とも友達になれないと思い込んだ。
彼はいつしか一年も二年も無言で過ごした。誰も話し相手がいなかった。
そんな熊がある日、狐に出会う、
狐はある日、蜂の巣からハチミツをなめようとしていた。
そこへ熊が通りすぎた。熊は狐を脅かしてハチミツを奪おうとした。
狐は熊の瞳を見つめたまま微動だにしなかった。
熊が怖い声を出しても手を振り上げても狐は真っ直ぐ見つめ、動かなかった。
熊は自らを恥じた。頑なな生き方をしたことを。自分に嘘をついていたことを。


熊はその晩大声で泣いた。自らの封印していた感情を解き放った。熊は悲しかった。寂しかった。空しかった。友達が欲しかった。
だが、今まで弱さを認めなかった。


次の日、熊は狐にありがとうと震えた声で言った。ひとと話をするのがあまりにも久しぶりだったので頭から足先まで震える。
狐は無言で静かに微笑んだ。そして森の中へ消えた。




熊はいつしか狐を愛していた。愛すれば愛するほど距離を離し、遠くから見つめた。
目を会わせることもできない。
近づくだけで息が出来なくなる。
こんなに愛しているのに近づくことも話しかけることも触れる事も出来ない。


熊は冬眠するまでに自らにある行動を課した。



空はドンヨリと重たく、雲は厚く、空気は張りつめる。
枯れ葉が森を染め、生き物の活気はなくなっている。

初雪が降ったその日、狐と熊は初めて一緒にダンスを踊った。
これから二匹は冬眠に入る。二匹はきっと来年まで会うことはないだろう。



熊は安らかに眠った。狐と踊った興奮止め去らなかったが、冬眠を促す自然の力に伏せた。


体内で生成される強力な代謝低下液は同時に催眠を引き起こす。


春にはまた会うんだ。

狐は兎のように小心な熊を愛しく思った。
狐は眠っている熊の大きな背中の上に乗り、冬眠に入った。
穴蔵は二匹の静かな寝息に包まれた。


熊は春になって、また狐に会う夢を見た。
熊は夢の中で狐を追いかけた。