生きる印・前編、中編(小説)

 この物語を多くの人に贈ります。夢を信じ、人を愛し、希望をいつまでも心に宿す人。人を信じ、人と同じくらいに自分を信じる人。あらゆる魔法を確信する人。または前のことを望む多くの人に。
 そしてこれら以上の多くのものをこの物語の主人公や各登場人物達によって贈られることでしょう。



生きる印
前編



季節はいつまでも暑い夏で、たまに大雨が降ってくる 太陽は容赦なく地面を熱くし、全てを乾かした そんな広い広い砂漠の中、君はいた
砂の中 根を張ったけれど
地面はあまりにも柔らかくて、すぐに立ってはいられなくなった
風は次々と砂を運び
一箇所にじっとしていることはとても難しかった すぐに倒れてしまい、根を張ることの難しさを知った

でも悪いことばかりではなかった 時々旅人が君を頼りにやって来た
体が大きいのでよい目印(マーク)になった

それに、こんな熱い所なのに体を精一杯広げ
たくさんの葉をつけ備えていた
多くの人が君の下で休み、君に癒された

君は気がつくと、とてもとても人を好きになっていた


物語の扉はそこで開かれる

 これからする話はこことは違う世界の話です。『ここ』というのはあなたが今いる世界のことです。とはいっても、あなたが今いる世界とはたいして違わない世界です。
 この世界はあるひとによって創られました。そのひとは人間かというと違います。それは、私たちが神様と呼んでいるひとです。神様はこの世界だけではなく、色々な所に世界をお創りになりました。神様といってもたくさんいまして、神さまひとりが創る世界はひとつのようです。神様は世界を作る時に色々なルールを作りました。その中の一つに自分が創った世界から住民を出してはいけないというものもありました。そのおかげで私達は私達の宇宙から出ることができずに苦労をしているわけです。今からする話はある神様が創ったリュウという名前の世界でのお話です。


◆始まり

 昔々、もしくは遥かな未来。ここでは『今』ではない時とだけ申しておきましょう。
ある砂漠の真ん中にとても優しい性格の木がいました。その木は他の木とは違う所がいくつかありました。それはしゃべれることや、歩ける事でした。そしてその木は自分の名前を持っていませんでした。
木はとても人が好きでした。だからある日、人に名前をつけてもらおうと思って旅に出ました。

 砂漠を横切って、疲れて来た時、ちょうど旅人がやって来ました。旅人は木のそばによってきて木陰の下で休みました。木は旅人に話しかけました。
「ねえ、あなた。私には名前がありません。何か名前をつけてくれませんか。」
「うーん。ペスっていうのは」
「私は犬ではありません。もっと木らしい名前はありませんか」
「うーん、じゃあボタピポポピペペタビというのは」
「ボタピポポピペペタビ?すばらしいです。その名前、気に入りました。今度から私はボタピポポピペペタビと名乗りましょう。ありがとうございます」
旅人はその後、お辞儀をした後、休ませてもらったお礼にボタピポポピペペタビに水をかけて去っていきました。ボタピポポピペペタビはますます人が好きになりました。ここで名前を付けてもらったボタピポポピペペタビですが、この旅は世の中をみてまわるのにいい機会だと思い、そのまま旅を続けました。

 砂漠を抜けて草原にたどり着きました。ある鳥がボタピポポピペペタビに飛び寄ってきました。
「こんにちは、これからここに巣を作りますよ」
「はいどうぞ、巣を作ってください」
「あなたの名前は何というのですか」
「ボタピポポピペペタビと言います」
「聞いたことがありませんね。どこから来たのですか」
「あっちの砂漠です」
「新種なのですか」
「わかりません」
ボタピポポピペペタビはそういえば、同種の仲間や自分の親さえも見たことがないのに気がつきました。自分の生まれた所は砂漠だと思っていたのですが、もしかしたら違うのかもしれません。
「あなたはどなたですか」
「こまどり駒鳥と呼ばれています」
「そうですか、駒鳥さん、私は旅をしているのですが、このまま旅を続けてもいいですか」
「それは困ります。巣が同じ所にないと餌を探しにいけないし、あなたの歩く振動で巣が落ちてしまいます」
「ですが私は旅をしたいのです」
「それでは仕方ありません。私は他の木に巣を作ります」
「すみません」
「いえいえ、ごきげんよう」
駒鳥は飛んでいきました。ボタピポポピペペタビは旅を続けました。

 草原の中でライオンに襲われている人に出会いました。ボタピポポピペペタビは急いで人とライオンの間に入り、その人を助けました。その人はすかさず近くの車に乗って逃げていきました。
「ちきしょう、なんてことしてくれたんだ」
「私は人が好きなのです」
「だったら俺達が飢え死にしてもいいっていうのかよ。俺の四人の息子や娘はどうしてくれるんだ。グルルーー」
「では私の葉を食べてください」
「ふざけるな、俺は肉食主義なんだよ。葉なんか食えるか、グルルー」
困ったことになりました。ライオンはとても怒っています。
「ちくしょーー、それじゃあ、俺の爪とぎにでもなれ」
ライオンはボタピポポピペペタビをひっかいて爪をとぎました。
「ああ、痛い、痛い」
でもボタピポポピペペタビは堪えました。ライオンはこんなことをしていてもお腹は一杯にはならないので次の獲物を求めて去りました。
「痛いなあ」
そう言いながらボタピポポピペペタビは旅を続けました。さっきの人は無事に逃げられたのでしょうか。ちょっと心配です。


◆マークと占い師リミントの出会い

 そこからひたすら歩き、田舎道にたどり着きました。そして、その田舎道をどんどん歩いて行き、道路の脇で机を構えて椅子にすわっているおばあさんに会いました。ボタピポポピペペタビはそのおばあさんに話しかけました。
「何をしているのですか」
「あたしはリミント。占いをやっているんだがね、客が来ないのじゃ、まあこんなへんぴな所に来る人なんてめったにいないことはわかっているんだけど、やっぱりさびしいわね」
「では私を占って下さい」
「そうかえ、それは助かる。では占いましょう。お主の名前は何じゃね」
「ボタピポポピペペタビです」
「なんじゃって?」
「ボ、タ、ピ、ポ、ポ、ピ、ペ、ペ、タ、ビ、です」
「変わった名前じゃのう、年齢は?」
「生まれた年はわからないのです。物心ついた時は親もいなかったですし」
「そうか、あたしはね、全てとのつながりをみて占うのじゃ。お主の場合その名前や体の傷、しわ、葉のはえ方、そういうものを見て、時とのつながり、宇宙とのつながりを占うのじゃ、何だかすごそうじゃろ」
そう言っておばあさんはボタピポポピペペタビのまわりを手で触りながらまわりました。しばらく、丹念に目をつぶって触ったり、目をこらして見たりしていました。
「うーむ、お主は名前と同じくらい不思議なしわをしておるのう。葉っぱや枝のつき方は全てを包み込むようじゃわ。そこにお主の優しさがみえるのう。あとは、・・・幹が太いのう。何事にもめげない強い意志が感じられる。それと一番重要なことはお主が歩けるということじゃのう。これはお主にとってとても重要なことじゃ。何せ普通の木は動かないからねえ。普通の木は動かない事に意味がある。じゃが、お主は動くことに意味があるようじゃ」
「意味とはなんですか」
「生きる意味じゃ。この世の生きものは生まれた瞬間に仕事を与えられる。そしてその仕事が終わった時にこの世を去り、しばらく休むのじゃ」
「死ぬということですね」
「そういえばわかりやすいねえ、とにかくお主は動くことでお主の生きる役割が果たされそうじゃ」
「ああそうなのですか」
ボタピポポピペペタビの心は雲ひとつない空のようにすっきりとした気分になりました。
「これからも旅を続けるといい。お主がいつか安住できる地を見つけられる姿が見える。そこが見つかるまではお主の役割を十分に果たすことじゃな。あと一つ、言いにくいのじゃが、お主の名前はあまり良くないのう。ポポとかぺぺというのはあまり言い言葉ではないんじゃ。あたしも勉強不足なのじゃが、その名前は変えたほうがいいと思うのう」
「そうですか」
ボタピポポピペペタビは自分の名前が気に入っていたため、少し残念な気持ちになりました。ボタピポポピペペタビはおばあさんに深々と礼をして、旅を続けました。そして生きるための役割を果たすためにも旅を続けようと決心をするのでした。



◆マークとソーヤの出会い

 田舎道に沿ってしばらく歩いていくと、一軒家がありました。その近くでボールを蹴っている6、7才ぐらいの少年がいました。マークはその少年に話しかけました。
「こんにちは」
「うん」
少年はうつむいたままボールをいじりながら応えました。
「私はボタピポポピペペタビといいます」
「僕、ソーヤ」
少年はボールを止めるとボタピポポピペペタビのほうを向きました。
「私は親を捜して旅をしているのですが、何か知っていますか?」
「ううん、知らない」
「そうですか」
まわりには家はなく、とても静かでした。アリが歩いている音が聞こえそうなほど静かな所でした。その中でソーヤはひとりでいるようでした。
「お母さんはいないのですか」
「仕事に行っちゃった」
ソーヤは淋しそうな目をしました。
「お友達はいないのですか」
「これ」
そういってソーヤが指さしたものはソーヤがさっき蹴っていたボールでした。ボタピポポピペペタビはソーヤをかわいそうに思いました。何だか自分に似ていると思いました。
「私と遊びましょう」
「ほんと?」
暗い顔をした少年から小さな笑みがこぼれました。本当は『友達になりましょう』と言いたかったんです。でもボタピポポピペペタビはまだ旅の途中。もし友達になってからさよならを言うとソーヤを深く傷つけることになります。ボタピポポピペペタビは途中まで出かかった言葉を飲み込みました。
ボタピポポピペペタビはソーヤと遊ぶことになりました。ソーヤはボタピポポピペペタビにボールを蹴りました。ボタピポポピペペタビは体にボールをぶつけて返しました。ボタピポポピペペタビは動きがのろいので、ときどきソーヤの蹴るボールに追い付けなくなり、ボールが遠くに行ってしまうことがありました。でもソーヤはそんなボタピポポピペペタビにいらついたり、怒ったりはしませんでした。ソーヤはとにかく嬉しかったのです。ふたりでボール遊びをすることが。
 ソーヤの顔はみるみる笑顔に変わっていきました。ふたりでボールを蹴ながらお話をしました。
「ねえ、ボタピ・・・えーと」
「ボタピポポピペペタビです」
「えっ?」
「ボタピポポピペペタビです」
「ねえ、マーク(目印)って呼んでもいい? その名前覚えられないよ」
「はい、ではマークと呼んでください」
ボタピポポピペペタビはマークという名前もとても気に入りました。
「ねえ、マークはどこから来たの」
「砂漠から来ました」
「砂漠? スゴイよ、よくここまで来れたね」
「はい、途中色々なひとに会いました。旅の人、駒鳥さん、ライオンさんに占いのおばあさん、それにソーヤ」
「へえー、いいなあマークは。僕はいっつもひとりぼっちだし、どこにも行けないもの」
マークはソーヤを旅に連れていきたくなりました。ソーヤの側にいてあげたい。いつまでも友達でいたい。そう思いました。でもそんなことをしたらお父さんやお母さんはとても悲しむでしょう。ソーヤとボールを蹴りながらだまって考え込んでしまいました。
「どうしたのマーク」
「私は旅をしています。今も旅の途中です。私はまたどこかへ行かなくてはならないのです」そう言うとソーヤが悲しそうな目をするので付け加えました。
「でもしばらくはここにいようと思います。ソーヤの友達になりたいのです」
「本当に?」
「はい、本当です。わたしの体に乗って下さい」
「どこかへ行くんだね」
ソーヤは生まれて初めて木登りをしました。マークの体にはライオンからひっかかれた傷があったのでソーヤはそこに足をかけて上りました。マークは痛いのを我慢しました。そしてソーヤが上りおえるとゆっくりと歩きだしました。
「こちらを行くと、どこにつきますか」
「そっちはね、町の方だよ。お母さんがいっつも仕事に行く所」
「そうですか。ではこちらを行きましょう。こちらは先程来た道だから少しわかります。あのおばあさんはまだいるのでしょうか」
マークはおばあさんの所へ歩きだしました。おばあさんの方に向ながらふたりはお話をしました。脇の道では車一台も通らなく、とても静かでした。空ではひばりがピーチクパーチク(わたしはこんなに元気よ)と鳴いていました。
「私は物心ついた時にはひとりきりでした。ですから親の顔を知りません。それの自分の名前もありませんでした。私は最初誰かに名前をつけてもらいたくて旅に出ました」
「ふーん、モノゴコロってなに?」
「そうですねえ、ソーヤがあと3エイクくらい年をとった頃ですかねえ。(それでいいのでしょうか。)」
マークは自分で言ったことなのに、正確な事はわかりませんでした。
「砂漠にいたらのど乾かない?」
「乾きませんでした。私は太陽の光と少しの水があれば生きられるのです。砂漠ではたまに大雨が降ります。私は雨の水を体いっぱいにいれて次の雨がくるまで溜めておくのです」
「へえー。マークってすごいなあ。僕なんか毎日何か飲まないと、のどが乾くもの」
「私は人間ではありませんからソーヤとは体の作りが違うのです」
「でも歩けるでしょ」
「そうです。普通の木は歩けません。なぜ私が歩けるのかは、私にも分かりません」
「マークってすごいよ。きっと世界で一番素晴らしい木なんだよ。もしかして天から落ちた木の王子様なんじゃない?」
「なんですか、それは」
「本で読んだの。ずーーーーーーーーーーっと昔から雲の上に木の王様が住んでて、地上の木達を見守ってたの。王様は普通の木と違って、歩けたり、しゃべれたりできたの。王様にはとてもとてもかわいがっていた息子がいたの。でもいたずら好きの天使にそそのかされて木の王子さまは地上に飛び降りてしまったんだって。王子さまは土にめり込んでしまったんだって。王様は後で気が付いて大泣きをして、神様にジヒを願ったんだって。それで神様は土と神の血を混ぜて王子さまにかけたんだって。そしたら王子さまは人間になったんだって。でも土の色が混ざって肌の色が黒っぽかったんだってさ。おわり」
「そうですか」

 そうして話しているうちに占い師のおばあさんの所に着いてしまいました。
「よかった。まだいました」
「あら、まあ、どうしたのじゃ」
「私の友達を連れてきました」友達という言葉がつい出てしまいました。
「こんにちは」
「こんにちは、僕ソーヤ。マークと友達になったの」
「あたしはリミント、占いをやってるのじゃ。お主はマークに名前を変えたのかい、それがいいねえ」
「これからはボタピポポピペペタビ=マークと名乗ります」
「そっちの方がいいねえ」
「あばあちゃん占いしてるの?」
「ああそうさ、どれ、ソーヤも占ってあげようかい?」
「やだ」
「どうしてだい?」
「だって怖いもの。もし悪い事言われたら嫌だもん」
「そうかい、じゃあ悪い事は言わないでやればいいかえ?」
「うん」
「じゃあ占ってみせましょう。名前は、ソーヤ。生年月日は?」
「セイネンガッピ?」
「生まれた日は分かるかい?」
「誕生日の事?」
「そうだよ」
「空月雲日」
「ソーヤはいまいくつ?」
「7才」
「2726エイク、空月雲日。それがソーヤの生年月日だよ」
「うん」
おばあさんはさっきマークを見たときと同じようにソーヤを見ました。
「ソーヤはとても慎重な人ね。そのおかげで悪い事を色々と避けることができそう。それで・・・うーん、大きくなった時とても独創的な人になりそうじゃ。独創的というのは、他の人では真似のできないものを持っているということじゃ。あとは、人を思いやる優しい心をもっているわね。大きくなったときには、何でも話せる友達がいると、何かと助けてもらえそう。その人はソーヤが選ぶといい。それと・・・、仕事面で大きな分かれがありそうじゃ。その時は思いきってかけるといいわ。最後まで諦めなければきっといい成果をのこせそう」
「ふーん」
ソーヤはおばあさんの話に聞き入ってしまいました。おばあさんの言うことがもっともに聞こえました。マークも黙って聞いていました。
「どうだい、何かの役には立ったかい」
「うん。おもしろかった」
「よかったのう。どうだい、これからあたしの家に来ないかい?」
「いくーーー」
「今日の商売はこれで終わりじゃな」
おばあさんは机の上にあるものを片付けて、いすにのっけて、いすだけを持っていきました。おばあさんは道路の脇にある小さな道に入っていきました。ソーヤとマークはおばあさんの後を着いていきました。

 おばあさんの家は道路から外れた小高い丘の上にありました。家の裏からは羊の声が聞こえました。どうやら羊を飼っているようです。家の左手側には小さな植物園がありました。その植物園は丁寧に整理されていて見た目がとても綺麗です。家の前だけは石造りの道ができていて、脇には小さな池がありました。その池の中で蛙が一匹ひなたぼっこをしていました。

「ちょっと待ってておくれ、羊達を柵のなかに入れるから、そのいすに・・・
いすを外にもってきてすわって待っていておくれ」
家のいすにすわってておくれと言おうとしたのですが、マークはとても家に入れる大きさではないことに気が付いたので変えました。おばあさんは自分の持っているいすを置いて家の裏に向かいました。おばあさんが行った後、ソーヤはおばあさんの家に入り、いすを探しました。家はとても古くて、おばあさんにぴったりのようでした。長年住んでいるらしく、独特の人の匂いがしました。ソーヤは最初に入り口から左手側の部屋を探してみました。その部屋にはロッキングチェアー(揺りいす)がありました。次にそのとなりの部屋を探してみました。その部屋は寝室で、いすは何もありませんでした。入り口から右側の部屋を探すと、そこは食堂でした。そこにはちょうどよいいすがあったので、そのいすをもっていくことにしました。ソーヤがいすをもちあげた時、外からリミントおばあさんと犬の声がしました。
「マックス、そっちから追って、いいわ」
「オン」
ソーヤはいすを運び終えた後に、机がないことに気が付いて、もう一度家の中に入りました。キッチンにある机は大きすぎますので、寝室にある小さな机を持っていきました。机の上には本がのっていました。本をどかそうと思ったけれど、読みかけの本なので、そのままにしていたほうがいいと思ってそのまま持ってきました。ソーヤが机を持って家の入り口にきたとき、おばあさんと、さっきないていた犬に会いました。その犬はダルメシアン(白い毛に黒ごま模様のついた犬)で、ソーヤにひとなつこそうによってきて「オン」となきました。
「お茶にしましょう。机はいまマークがいるところに置いて、少し待ってていて」
リミントおばあさんは家に入っていきました。ソーヤはマークの側に机を置き、いすを整えてすわりました。さっきマックスと呼ばれた犬がやってきました。そしてソーヤの隣にちょこんとすわりました。
「こんにちは、私はマーク。ボタピポポピペペタビ=マークです」
「ああ、私はマックスだ」
「こんにちはマックス」ソーヤはマックスの頭をなでました。
「私のこの声は分からないだろうな」
「どうやらそうらしいですね」
「人間はどうして私達の言うことが分からないのだろう」
「私の言うことはソーヤに聞こえるのですよ」
「えっ、それはすごい。どうやってそんなことができたのだい?」
「なぜでしょう。私は人が好きで、話をしてみたいと思う内に自然と話せるようになっていました」
「出身は?」
「砂漠です」
「もしかしてマークとマックス、お話してるの?」
「そうですよ。ソーヤはマックスの言っていること、分かりますか?」
「わかんない。マックスはさっきからだまってるよ」
「へー、あんた変わっているんだなあ。うちのばあさんも私の言っていることが分かるけど、それでも大体しか分かってないよ」
「私は本当に砂漠で生まれたのかどうか、分からないのです。なにせ気がついたときにはひとりだったのですから。それで旅をしながら情報を集めているのです」
「そう、マックス何か知ってる?」
ソーヤはマークの言っていることは分かるので、ふたりが大体何を話しているのか分かりました。
「私はあんたみたいなのは今日初めて会った。噂さえも聞いた事がない」
「そうですか」
マークはさっきソーヤから聞いた天から落ちた木の話を思い出していました。そして思いました。
『私は本当に天から落ちてしまったのではないか。ただ結末だけは違って人にはなれず木のままで一生を過ごすのかもしれない。』少し落ち込んでしまいました。
「木は長生きするのだから気長にいけよ」
「そうですね」

 家の方からすてきなかおりがただよってきました。
「ソーヤ、ちょっときてちょうだい」
リミントおばあさんが呼んでいます。ソーヤは走っておばあさんの所へいきました。キッチンでおばあさんが紅茶を入れていました。お皿の上にはビスケットがのっています。
「ソーヤはビスケットを運んでおくれ」
ソーヤとおばあさんはおやつを運び、おやつの時間がやってきました。ソーヤは紅茶を飲んでみました。甘くてちょっとすっぱく後味のすっきりしたアップルティーでした。
「これはお婆ちゃん特製のアップルハーブティーなんだよ。おいしいでしょ」
「うん。おいしー」
ソーヤはビスケットも食べました。甘くて適度なはごたえがあっていくらでも食べられそうでした。ソーヤはお茶が冷めるとマークに飲ませ、ビスケットはマックスにあげました。
「ばあさんのつくるビスケットはいつもおいしい」
「ああ、おいしいですね。なんておいしい紅茶だろう」
おやつを一通り食べおえたあと、ソーヤとマックスは走り回って遊びました。おばあさんはそれをながめていました。マークはおばあさんに話し掛けました。
「リミントおばあさん、ソーヤには友達がいません。あの子の家のまわりにも家がないし、兄弟もいない。親も仕事に行っているようです。だれもかまってくれるひとがいないのです。だからいつもボールを蹴って心をなぐさめているようです。どうかマックスと友達になるよう、マックスに言ってはくれないでしょうか」
「ああいいよ。私もこんな年になって一人暮しをしているものだから暇だけはあるからあたしもできるかぎり面倒をみるよ」
「ありがとうございます。私は旅を続けます、でもきっとまた帰ってきます」
「そうするといい。もしかしたらここが安住の地となるかもしれんな」
「そうなるといいですね。ここはとてもいい所です」
「じゃったら早くするといい。あの子には私から説明しておくから」
ボタピポポピペペタビは旅を続けました。

 その日の夜、ソーヤはお母さんにいっぱいのお話をしました。マークのこと、リミントおばあさんのこと、マックスのこと。いつも静かなソーヤがこんなにも嬉しそうに話をするなんて、お母さんもとってもうれしくなりました。ふたりは柔らかな毛布に包まれて、ぐっすりと眠るのでした。




◆マークとトリトムの出会い

 マークは歩き続けました。田舎道を抜け、森の間の道を抜け、町に着きました。町の中を少し歩くと、マークは地面に倒れている少年を見つけました。少年とは言ってもソーヤよりは6、7才ぐらいは年上に見えました。マークは心配になって話し掛けました。
「どうしたのですか」
「・・・お腹がすいて動けないんだ。もう三日も何も食べていない。何か食べものをわけてください」
少年の顔はげっそりとやせていて、目はうつろでした。体は汚く、全身が真っ黒でした。マークは何かあげたかったのですが、何も持っていませんでした。
「ごめんなさい、私はいま何も持っていないのです。でも少し待っていてください。何か持ってきますから」
マークは食べものを分けてもらおうと、家々をまわりました。けれど、どこの家も冷たい反応でだれも分けてはくれませんでした。そして、少年の話をすると、あの少年は泥棒だと人々は言いました。
マークは人々の冷たい反応にだんだんと心が沈んできました。マークの好きなひとはこんな事をしなかったはずです。それでもマークはめげずに家々をまわり、断られ続けました。マークはそのたびに傷つき、足取りが重くなりました。まるでなまりを背負って歩いているようでした。木が歩く事がどれだけ大変かわかりました。
また次の家でも追い返されてしまいました。

 マークはいつのまにか町外れの方で涙を流しながら歩いていました。そして木造の古くさい家の前につきました。
「すみません」
マークは蚊のような声で呼びました。マークはもう力が入らなかったのです。でもそんな声では家の中まで声が届くわけがありません。
「すみません」
今度はさっきより少し大きな声をだしました。空は青く、雲はゆっくりと動いていました。
「はい」
家の中からかすれた声が聞こえました。
「すみませんが食べものを分けてください」
「すまんが入ってきてくれんか。ワシはいま風邪をひいていて寝こんどるのじゃ」
「すみません、私は体が大きいので入れないのです」
「・・・ちょっと待ってておくれ」
中からはベッドから起き上がり、床をゆっくり歩いてくる音が聞こえてきました。

 おじいさんが扉を開けて出てきました。
「おや、なにか悲しそうじゃ」
マークの顔を見ながらおじいさんは言いました。
「わかるのですか」
「わかりはせん。ただそういう気がするだけじゃ。あなたは本当に大きいのう。あなたを満足させることはできませんが、少しでよかったらお分け致しましょう」
「いいえ、私が食べるのではありません。町の反対側にお腹がすいて倒れている少年がいるのです。その子に分けてあげたいのです」
「おおそうかい、少し待っておいで」
おじいさんは家の中に入っていきました。そのあと家の中で咳を何回かしていました。マークはさっきの少年と会ってからずいぶんと時間がたっているように思いました。そして一刻も速く少年の所へ飛んで行きたくなっていました。マークはおじいさんから食べものの入ったバスケットをもらうと、おじいさんに心から礼を言って、途中道に迷いながらも急いで少年の所へ向かいました。

「ング、ハグ」
少年は喉をつまらせながらおじいさんからもらったパンとチーズを口の中に放りこみました。
「ありがとう、この数日間でこんなに親切にしてくれたのはあなただけだ」
「そうですか。よかったですね」
「僕の名前はトリトム、あなたは?」
「ボタピポポピペペタビ=マークです」
「え?」
「ボタピポポピペペタビ=マークです」
「ボタポピピタビ=マーク?」
「いいえ、ボタピポポピペペタビ=マークです」
「ポタピペピピポポタビ=マーク?」
「いいえ、ボ、タ、ピ、ポ、ポ、ピ、ペ、ペ、タ、ビ、=、マ、ー、クです」
「うーん、要するにマークだね」マークの名前はやはり覚えにくいようです。
「はい そうです」
「本当にありがとう、マーク」
「はい、でもどうしてこんな所で倒れていたのですか」
「僕みなしごなんだ。とはいっても親が死んじゃってみなしごになっちゃったんだけどね。最初は施設にいたのだけどね、そこがあまりにもひどい所だったから逃げ出してきたんだ。逃げたのはいいけれど、お金もないし、仕事もない、この町に着いて食べものをもらいにまわったけれど、だれも分けてくれなかったんだ。そこである家にしのびこんで食べものをちょうだいしようとしたら見つかってしまって、たくさん殴られて、ここに倒れてしまったんだ」
そういえば、トリトムの顔にはあざがありました。
「行くあてはないのですか」
「どこにもない」
「これからどうしましょう」
「わからない、どうしたらいいのか全く分からないよ」
「では、とりあえずこのパンとチーズをくれたおじいさんにお礼を言いに行きませんか」
「うん」
マークはトリトムを乗せておじいさんの家に行きました。マークは大きくて入れないし、おじいさんは風邪で寝込んでいるので、トリトムが家に入ってお礼を言いにいくことになりました。
トリトムがおじいさんの家のドアをノックすると、どうぞという声と咳声がしました。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
「僕はトリトムといいます。さっきパンとチーズを分けてもらった者です。どうもありがとうございました」
「かまわんよ。困ったときはお互い様じゃ」
「はい」
「でもそう思うならある事をしてもらおうかの」
「あること?」
「仕事じゃ。裏の畑にある野菜をとってきてほしいのじゃ」
「わかりました」
「ワシはいま風邪を引いているから外に出るのがつらいんじゃ。大体十日分ぐらいの野菜をバランスよく取ってきておくれ。野菜を入れるかごは台所にある。あと、君の友達はまだいるかい」
「……マークの事ですか」
「だれじゃ?」
「あの…木です。歩く木」
「そうそう、彼はマークっていうのかい」
「そうです。マークがどうかしたのですか」
「ちょっと連れてきてくれ」
「はい」
トリトムはマークを呼びました。でもマークは大きすぎて家に入れないので、おじいさんの寝ている家の裏側にまわり、窓を開けてもらって話をしました。
「トリトムは仕事にいっとくれ」
「はい」
トリトムが部屋から出るとおじいさんは話始めました。
「君はマークというそうだね」
「はい、そうです」
「あの子、トリトムはなんで倒れていたんだい」
「はい、トリトムはみなしごらしいのです。元々は他の所に住んでいたらしいのですが、そこがひどい所で逃げ出してきたのだそうです」
「ゴホッ、失礼、続けて」
「でも、逃げてもどこかに身寄りがあったわけではなくて、この町に着いた時にあまりにもお腹がすいて、パンを盗もうとしたところで見つかってたくさん殴られたそうです」
「ひどい話じゃのう」
「そこに私が偶然通りかかったのです」
「そうか・・・」
「なぜこんな事を聞くのですか」
「あの少年もマークのように悲しそうな目をしていたからきっと何かあるだろうと思ったのじゃ。そしてあの子が話すよりはマークが話すほうが話しやすいだろうと思ったのじゃよ」
マークはこの人はなんて優しい人だろうと思いました。始めて会った人にそこまで気を回せるなんてすばらしい人だと思いました。
「あっ、あの・・お願いがあります・・・」

 その頃トリトムは必死に野菜を引き抜いていました。これは決して重労働だとは思えないものですが、トリトムの体は疲れきっているし、お腹もすいているために思うように力が出ませんでした。一本抜くのに精一杯の力を出さなければならないほどでした。

 トリトムはボロボロになっておじいさんの家に帰ってきました。家の中からはおいしそうな料理のにおいがします。トリトムはその匂いをかいで、お腹をかき回されているような気持ちになりました。もう気が狂うのではないかとさえ思えました。トリトムが力なくドアを開けると、おじいさんが温かく迎えてくれました。
「おや、やっと終わったのだね。ありがとう。こんなに世話になったからにはトリトムにお礼をしなければならんのう。ちょうど、ごはんを作っていたころだし、ワシのようなジジイが食事をしても余るだろうから誰かに食べてもらおうかの」
「あのー・・・」
「どうじゃトリトム。食べてくれんか、人助けだと思って」
「あの、あの、ありがとうございます。本当に、本当になんてお礼をいっていいか・・・」
「いいんじゃよ、いいんじゃ。ワシもとっても貧しかった頃があるからトリトムの気持ちはよくわかるんじゃ」
この時トリトムは何も言えなくなってしまいました。どんな言葉を使ってお礼をしたらいいのかわからなかったからです。

 食事をしながらおじいさんはトリトムに話し掛けました。
「トリトムの事、マークから少し聞いたよ」
「何の事ですか」
「トリトム、いまは孤児で住む家もないそうじゃな」
「はい」
「マークがさっき必死になって頼んできたよ」
「マークが?」
「そう、マークはなかなかできた人間・・ではないが、とにかくよくできた木だよ。マークとはまだ会ったばっかりじゃろ。それなのにトリトムのことで一生懸命になっていた。それでな、トリトムさえ悪くなければここに住んでいいのだよ」
 トリトムはこの町に来てからこれほど優しい言葉を聞いたことがありませんでした。どの人もよそ者のトリトムにつらくあたりました。それでもトリトムはずっと我慢していたのです。トリトムのお父さんやお母さんが死んでしまったときも、孤児院でひどい目にあった時も我慢していたのです。でもついに我慢する事ができなくなりました。でも今は違います。今は優しさに我慢ができなくなってしまったのです。トリトムはありがとうを繰り返してただただ泣きました。
「どうしたんだい、何か困ったことでもあったのかい」
「ないです、ないですけれど・・・」トリトムは泣きじゃくりました。そして次の言葉を絞りだすように言いました。
「うっ…れしい……いんです」
トリトムの頭の中には今はもう帰ってこない優しかったお父さんとお母さんの姿がありました。
「そうか、そうか、ではここでゆっくりしていきなさい」
「ううっ」
トリトムは歯を食いしばって涙を止めようとしましたが、その涙を止めることはできませんでした。トリトムの黒い顔はそのきれいな涙で洗われていました。
「うんわかったよ。わかった」
おじいさんはゆっくり立ち上がるとトリトムの頭をなでました。おじいさんもつられてつい泣きそうになってしまいました。


◆マークとチーズの出会い

 マークはおじいさんがトリトムの世話をすると言った後すぐに考え事をしながら近くの森に向かっていました。おじいさんの楽ではなさそうな暮らしぶりを見て、何かしなくてはと思ったのです。
森に向かって行ったのは誰かがいい知恵を貸してくれることを期待していたのです。

 近くに見えた森は以外と遠く、森に着く頃には夜になってしまいました。マークは森に入ると何だか光っているようなものがあるのに気がつきました。マークは何だろうと思ってそれに近付きました。
近付いていくと、よけいに変だと思いました。それはトラが光っているからでした。マークはトラに話し掛けました。
「こんばんは」
「・・・」
トラはマークの方をじーっと見ながら近づいてきました。トラはだまってマークのほうに近付いてきました。そしてマークの後ろにまわるとそこで座って見ていました。
「こんにちは。私はボタピポポピペペタビ=マークです」
マークはトラの方を振り向いていいました。
「あんた・・・俺がわかるのか」
「ええ、トラさん」
トラはびっくりして言いました。
「俺は精霊なんだ。しかも特殊なやつで生きているものには見えないようになっているのだが、あんたも何か特別な何かを持っているのだな」
「そうです、私は普通の木とは違います。人と話せるし、歩いたり、動いたりできるのです」
「へえー俺達の同類かな。俺はチーズ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
マークはそれから今まで旅をしてきたことや親のことをチーズに話しました。
「あんたの親? 知らんな。あんたみたいなのは今日初めて会った。けれどあんたすごく特別だよ。そこが俺達に似ているんだ」
「特別・・・ですか」
「ああ、一度俺達の森に来てもらいたいな。あんたなら来れるだろうし、親の事も何かわかるかも、生き別れになったのかい?」
「いいえ、記憶にないのです。だから私に親がいるかどうかも分からないのです」
「親のない子なんていないよ。親は必ずいるものさ」
「そうですね」
「それで、なんでこんな森に来たんだい」
「それは、・・」
マークは今日起こったことを説明しました。そして、何かよい知恵がないか尋ねました」
「何か特技はないのか?」
「いいえ、特技と言えるものはありません。あえていえば、しゃべれたり歩けたりできるということです」
「でも木だもんなあ」
チーズも悩んでいるようです。
「うーん、なにか力仕事はないだろうか。明日町で力仕事になりそうなものを探してみたらどうだろう」
「はい、それがいいようですね。明日町に戻って何か仕事を見つけます。」
「本当は俺みたいになれればいいのだけれどな。まあ、あんたは多分無理だろうから俺が見守ってやるよ。それできっとよくなるぜ」
そう言ってチーズは消えました。マークはびっくりしたけれど、精霊なら消えることもあるだろうと思って納得しました。近くの木の上では一匹のカラスがこのやりとりをみていました。カラスから見たらマークがまじめに独り言を言っているのですからさぞかし奇妙なものに思えたことでしょう。マークはそれから森の中で眠りました。

 マークは普通の木になって大地に根をおろす夢を見ました。ソーヤがやってきてマークの体を布で拭きました。そして何かとても楽しい話をして、一緒に笑いました。それは、とても幸せな時間でした。

 マークは朝日が顔に当たるころに起きました。他の木々も目を覚まし、おはようが森中にこだましました。マークはこれが木のあるべき姿なのだなと思いました。マークは近くの木にあいさつをしてみました。その木は一晩で現われた仲間におどろいていました。しばらくすると、今度は森中に動物たちのあいさつが広がりました。
 マークは人が起きる頃に合わせて森を出発しました。その頃には森中にマークの噂が広まっていて、森を出るときには、こんな事を言われました。
「おーい、森の王子様よう。また来ておくれよ」

 マークは町をうろつき、大工のいるところに行きました。
「おはようございます」
「ああ」
チョビひげの大工が釘を打ち付けながら言いました。
「私は仕事を探しているのですが、何かする事はありますか?」
「ねえな、帰んな」
「そこを何とか・・・」
トリトムとおじいさんのためにも引き下がるわけにはいきません。
「あんた、かなづちをもてんのかい? くぎは打てるのかい?」
「いいえ、でも力仕事ならまかせてください」
「しっかしなーー、もうほとんど出来ちまってるんだよ。ああ、向こうの家はまだできていなからあっちの大工に頼みな」
チョビひげの大工はそう言って指を指しました。マークは大工の指さした方へ行ってみました。すると、まだ家を作っているはげた大工がいました。
「おはようございます」
「ん、ああ、おはよう」
「私は仕事を探しているのですが、何か仕事をください」
「ん?んーー、仕事か、うーん、木ができる仕事?(何があるかな)
そうだ、ちょうど木材が足りなかったところなんだ。取ってきてくれないか」
「どこからですか」
「あそこのもりだよ」
そう言ってはげた大工が指差した方向は昨日マークが行って、チーズと会ったところでした。大工はもう木を切るための道具を用意しようとしていました。
「そんなことはできません」
「どうして?」
「彼らだって生きています。そんなひどい事は出来ません」
「俺達だって生きているよ。それはしょうがない事だろう」
マークは震えながら言いました。
「だったら、だったら、、、だったら私を切ってください」
「そんな震えて言うことじゃないよ。そんな奴切れるか」
「でも、でも、いいのです。私を切ってください」
「本当にいいんか」
マークはとても恐かったので、嫌ですと答えたかったけれど、だけど、他の木が切られるよりはましだと思いました。そして目をギュッとつぶると、体を横にして、待ちました。
大工は思いました『こんなに怯えてしまっている木なんて切れないよ。もしかして俺が今まで切ってきた木も痛くて泣いたりしていたのか。』大工はマークを切るのが嫌になってしまいました。でも切らなければ家は完成しないでしょう。思い切ってマークの体を端から切っていきました。マークは歯をくいしばって我慢していましたが、いつのまにか気絶をしていました。

 マークは不細工な格好になって、お金をもらうと急いでおじいさんのところへ行きました。まだ体がとても痛みます。
「どうしたんじゃその傷は?」
「どうしたのマーク」
おじいさんとトリトムは心配そうな顔で迎えてくれました。トリトムの方は、顔も服もきれいになっていました。マークは今までのいきさつを説明しました。

「そんなことせんでいいのに。今度からはそんなむちゃはせんでおくれ」
おじいさんのみけんのしわが深くなっていました。
「でも私はあなたたちの役に立ちたかったのです」
「うん、気持ちは嬉しいよ。ありがとう、マーク」
「ねえ、、これ。」
トリトムはマークの体から樹液が出てきていることに気づき、なめてみました。何だか蜂蜜に似たような味がしました。
「おいしー、これ取っておこうよ」
トリトムはビンを取りに家の中に入っていきました。
「しばらくはゆっくりと休んでおくれ」
おじいさんは温かい手でマークの体を何度もさすりました。マークはしばらくの間、体を休めることにしました。しばらくすると、どこからともなく猫がやってきて、マークの体をなめました。そのうち猫の舌がベタベタするようになったので、猫はマークをなめるのをやめて、マークの下で眠りました。おじいさんはいつもの通り、畑へ行きました。トリトムはまず、食べものを盗もうとした家に謝りに行きました。マークを見習って、丁寧な言葉で、丁寧に説明して、丁寧に謝りました。そして許してもらった後に仕事を探しに町の中を歩きまわりました。その日、トリトムは仕事を見つけることはできませんでしたが、トリトムの心の中には希望が湧いてきていました。

 次の日、おじいさんの家に、昨日マークを切ったはげた大工がやってきました。
「おおーい」
「はい、なんでしょう」
「はい、これ」
大工は大金をマークに渡しました。
「これは・・なんですか」
「あんたにやるよ、あんたの体から切った木は魔法の木だったんだ。切っても切っても元の大きさに戻ってしまったんだよ。俺はこれで何か新しい商売を始めるつもりだ」
「へえーすごいな、マークは」
トリトムはおどろいて言いました。マーク自身もおどろきました。自分の体が魔法のような体なんて。
「とにかくあんたの体は使わせてもらうぜ。この金はそれに見合うだけの金額だ。とっとけよ」
「ありがとうございます。ぜひ世の中のために使ってください」
マークは体を小刻みに揺らして喜びました。

 その日はとてもすてきな日になりました。トリトムは仕事を見つけることができました。その仕事は町の掃除屋です。給料は多くはなかったけれど、食べていくのに困るほどではありません。
おじいさんには、妹から手紙が来ました。その手紙には、最近子供が家に遊びに来るようになったことや自分の飼っている羊が新しい子供を産んだこと、自分の飼っている犬の事などを書いてありました。そして最後にはたまには遊びに来てほしいということも書いてありました。
マークの下で寝ていた猫にはすてきなこいびとを見つけることができました。

 マークはその日の夜、おじいさんの家からこっそりと去っていきました。今日大工からもらったお金をそっとおいて・・・。
人の良いおじいさんならきっとお金をもらうのを断ったでしょう。
それに木がお金を持っていても何の役にも立たないような気がしたのです。マークは親探しのためにもう一度チーズがいた森に向かいました。チーズは前と同じところで眠っていました。
「こんばんは」
「・・ああ、来たか。ふぁーーあ、つい寝ちまったよ」
チーズは大きなあくびをしながり言いました。
「とりあえず前の用事は終わりました」
「自分の体を売ったのかよ」
「はい」
「結構無理したな」
「はい、それではあなたの森に行きましょう」
「ああ、大歓迎だ。コンブじっちゃんにも見せたいんだ」
「あなたの森はどこにあるのですか」
「ここからはちょっと遠いんだよな。大きい山一つと小さい山二つ、そしてでっかいでっかい海を渡らないといけない」
「かなりの遠さですねえ」
「ああ、あんたならな。俺なら一瞬だけど」
「では、その前に友達にあいさつをしにいきたいのですが、いいですか」
「ああ、行ってきな。それと俺はいつもここにいるわけじゃないからな。だがあんたが呼べばいつでも行くから心配するなよ、じゃあな」
そう言ってチーズはまた消えました。



◆マーク、ソーヤの元へ

 マークはソーヤに会いに道を戻っていきました。道路をたどり、森を抜け、田舎路を通り、ソーヤの家に着きました。ソーヤの家にはだれもいませんでした。やはりここまでくると本当に静かで、風の音がとても大きく聞こえます。マークの頭は風が吹くとザワザワと音を立てるからそう感じるのかもしれません。
マークはリミントおばあさんの家に向かいました。途中の道の前と同じ所にリミントおばあさんが机を構えて座っていました。
「こんにちは」
「おお、マーク、帰ってきたのかい。どうしたんだいその傷は」
「・・・・・・・・があったのです」
マークは今までのことを説明しました。
「へーー、そうかえ、それは大変じゃったのう」
「はい、大変でした。私はこれからまた旅に出ます。それで別れを言いにやって来ました」
「そうかい、行くのか、それじゃあソーヤが悲しむのう。まあ、しょうがないかね。今だってソーヤはマークに会いたい会いたいと言っておる。今は近くの湖にいっておるから会いにいってやっとくれ」
そう言っておばあさんは湖の方を教えてくれました。

青い空には きりのように薄い色をしたドーナッツのような雲が一つ浮かんでいました。今日は本当にいい天気です。マークの心はおどっていました。ソーヤにまた会えるのですから。

 湖はリミントおばあさんの家の裏手からしばらく行ったところにありました。そこの桟橋でソーヤは何か絵を描いていて、マックスはその隣で眠っていました。マックスの体の下には釣り竿がありました。どうやら竿の番をしているようです。マックスはソーヤよりも早くマークが来ているのに気付きました。
「オン。(ソーヤ見てごらん)」
マックスはすぐに竿を口にくわえて桟橋の上に置きました。
「お久しぶりです。ソーヤ、マックス」
「オンオン。(やあ元気だったか)」

ソーヤは動かしていた手を止めて振り返りました。そこには見たことのある木がいました。マークです、あのマークがいました。体は少し不恰好になってしまいましたが、まぎれもなくマークです。ソーヤはすぐさまマークに飛びつきました。
「ああ、マーク、なんで急にいなくなったの。友達になってくれるって言ってくれたじゃない。ずっと心配していたんだよ。(ソーヤはマークにほおずりをしました)その傷はどうしたの。そのあと何かあったんだね。絵も描き始めたんだよ。おばあちゃんが上手だってほめてくれるの。マックスとも友達になったんだよ。どこにいくのも一緒なの。でも夕方には帰らなければいけないの。もうずっと一緒だよね。マーク大好き」
ソーヤは言いたいこと、頭に浮かんだことを次々と言いました。そう言ってマークを力いっぱいだきしめました。でもマークは体が大きいので手に余ってしまいました。


◆ソーヤとお母さん

 ソーヤのお母さんは家に帰ってくるとたいていは疲れていました。そしてとても不機嫌な時がありました。そういう時、ソーヤはお母さんに何を話し掛けていいのか分からなくなりました。その前に話し掛けるかどうかでも迷う時がありました。だからお母さんもとても心配することがありました。たまに仕事をがんばって早く帰ってきても(そういう時はたいてい疲れていました。)ソーヤはとても無口なのです。せっかく息子と同じ時間を過ごそうと早く帰ってきたのに。お母さんは夜寝る前にはソーヤにたくさんの本を読んであげましたが、いつも読みながら眠ってしまいました。ソーヤはお母さんがとても疲れているのを知って本を読むのをねだるのをやめました。そしてお母さんのいない時にこっそりと本を読んだのです。


◆ソーヤの鍵

 ソーヤにとってマークは心の扉を開いてくれる鍵でした。ソーヤはマークになら何から何まで話すことができるような気がしました。
ソーヤはマークの前では裸でいるのと同じでした。裸でいればマークの温かさも直接伝わってきました。その温かさは骨の中まで染み入ってきてソーヤを幸せな気分にさせるのでした。だからでしょうか。ソーヤはマークと会ってからそんなに時間はたっていなかったけれど、マークに深い友情と信頼を寄せていました。マークにはその他にもたくさんの魅力がありました。マークはとても優しい性格の上に心が純粋で嫌味な所がありませんでした。それにとても落ちついていて、考え方もとてもきれいで、すっきりとしていました。
 マークはしばらくの間リミントおばあさんの所にとどまりました。(それはソーヤにとっては一瞬の出来事でした。)
 その間にマークはソーヤのお母さんと会いました。お母さんはとてもびっくりしていました。ソーヤから話は聞いていましたが、まさか本当のことだとは思えなかったからです。
 チーズを呼んでおばあさんやソーヤやマックスを紹介したりもしました。彼らには見えないので少々一方的ではありました。チーズはみんなの事を気にいったようでした。
 その他の日、マークはソーヤと遊びました。そのおかげでソーヤの心はみるみるほぐれていきました。


◆そして、旅立ちの日

 マークはソーヤにその日までとうとう旅にまたでるということを言うことができませんでした。でも今日こそは言わなければなりませんでした。
「ソーヤ。私は今日から旅にでようと思っています」
「なんで」
「前から決めていた事なのです。今まで言おうと思っていたのですけれど、言うことができませんでした」
「嫌だよ行かないでよ」
「本当にごめんなさい。ソーヤ、またきっと帰ってきますから、それまでのちょっとの間さよならです」
「・・・」
それはソーヤにはあまりにも突然すぎました。ソーヤの頭のなかは真っ白になってしまい、ただの棒のように立ちすくんでいました。
「マークにはまだやることがいっぱいあるのじゃよ」
「わかってください」
こんな時はどんな言葉をかければいいのでしょう。どんな言葉もふさわしくないように思われました。
「・・・」
ソーヤはもう何を話していいのか全く分からなくなってしまいました。もう何を言ってもマークは行ってしまうのです。ソーヤはじっと地面を見つめたまま動けなくなってしまいました。マックスはソーヤを心配そう見ていました。

しばらくちんもく沈黙の時間が過ぎていきました。

 ソーヤは思いました。『マークが行くのは悲しくて、淋しくて、不安で、でも何か言わなきゃ。もうしばらくは話もできないし、何か話さなきゃ。』
「マーク、マーク、・・・・ぁ・・」ソーヤは必死に何かを言おうとしました。でも口はただ空回りするだけで結局何も言うことはできず、ただただ心が悲しみにおおわれていました。
マークにはわかりました。ソーヤが何をしようとしているのか。そうです、マークも今は何を話していいのかわからなくなっていたのです。マークだって悲しかったのです。

マークはしばらく考えた後、静かな声でゆっくりと話始めました。
「ソーヤ、ソーヤ・・・この世界は・・どこまでも・・どこまでもつながっています。・・・私が・・どんなに遠くまで行ったとしても・・私達は・・同じ空の・・下にいます。私が・・どこまでも・・行こうと・・ソーヤは・・一人ぼっちでは・・ありません。同じ・・空の下で生きる・・私がいるのですから」
「・・・うん」
ソーヤの鼻は悲しみで赤くなっていました。(でも決して泣きはしませんでした。泣くのを我慢して鼻が赤くなってしまったのです。)
「いつか必ず帰ってきます。その時まで待っていてくれますか」
「うん。マ、マーク、、さ、さようなら」
ソーヤは声をふるわせながら別れの言葉を言いました。
「では、また会う日まで」
「オン、オオン、ウオオーン(じゃあな、楽しかったぜ、またなーー。)」
リミントおばあさん静かに見送っていました。リミントおばあさんのまなざしは遥か遠く、未来の空を見つめていました。
マークはいつものペースでゆっくりと歩き始めました。
マークの歩いた後にはいつもより多くの葉が落ちていました。
(前編終了)


生きる印
中編


君は歩き始めたね
青い空の向こう、きら煌めく星々のかなた
そして 僕の知らない遠く、遠くへ


でも僕は信じてる
どんなに遠くまで行っても
ただいまを言うために
帰ってくる事を

きっと きっとだよ


僕は待ってる

君が僕の大切な大切な友達だから

 ボタピポポピペペタビ=マークは親を捜すためにチーズの故郷の森へ行くことになりました。大きい山一つと小さい山二つ、そしてでっかいでっかい海を渡り、チーズの故郷の森へたどり着きました。中編の物語はここから始まります。


◆マーク、森に着く

 マークは森に着いたのでチーズを呼びました。
「チーズさん、トラのチーズさん、着きましたよ」
そう言ってからしばらくするとマークの目の前で薄い光が集まり、それがだんだん濃くなっていき、水のようになり、固まり、それがトラの姿になりました。チーズの登場です。
「やっと着いたか、ずいぶんと時間がかかったな。一エイクぐらいはかかったかな」
「ええそうですね。険しい道が多くて大変でした」
「さっそくだがこれからコンブじっちゃんの所へ行く。コンブじっちゃんはこの森の主なんだ」
「そうですか。それでは行きましょう」
「おっと待ちな。ここからは俺の後をついてきな。そうしないと この森の中で一生迷ってでられなくなるぞお。この森は特別なんだから」チーズは牙を見せ、目を見開きわざと恐い顔をしてマークを恐がらせようとしました。
「ふふっ」マークはそんなチーズの意外な一面につい笑ってしまいました。

 マークはちゃんとチーズの後を着いていき、無事に森の中央にたどり着きました。森の中央には草地で出来ている広場がありました。そこだけ木が生えていないのは何だかとても不思議です。広場では色々な動物たちがお話をしたり、遊んだりしていて、一種のいこいの場となっているようでした。マークはおどろいてしまいました。というのは、森の中だというのに森の中に住まないような動物たちがいたからです。ラクダやラッコ、カモノハシまでいました。
「チーズさん、ここは本当に特別な所のようですね。ここにラクダがいるなんて」
マークはラクダを見ながら故郷の砂漠のことをふと思い出してしまいました。
「ああ、後で長々と説明・・・あっ、いや、コンブじっちゃんに聞いたほうがいいかな。余計な事を言うと後でしかられるもんな」
チーズはすまなそうにヒゲをたらしました。
「そうですか。でも本当におどろきです」マークはこうふんして、葉をザワザワと揺らしました。
「おい、早く行こうぜ」
「はい」

 チーズとマークは広場の中央に行きました。中央には大きな木の切り株があり、その上にタヌキが座りながらみんなを見守っていました。
「コンブじっちゃん、変わった奴連れてきたよ」
このタヌキがコンブのようです。
「ん? チーズか、どれ、この木ですかい」コンブもチーズと同じように薄い光を発していて、半透明でした。コンブは目が細く、腰が少し曲がっていて体の所々からしらがが生えていました。この森の主だというのですから相当な長生きなのでしょう。
「私はボタピポポピペペタビ=マークです。よろしくおねがいします」
「よろしく、私はコンブ。この森の主ね」
「じっちゃん、マークは俺達のことを見えるんだ。変でしょ」
「・・・マーク君、君が特別な事は歩く事、そして喋る事で分かった。さてさて問題は、だね、その後なんだ。君の心持ちがどのほどあるのか、これはとても大切なことだね。チーズ、話を聞かせてもらうね」
「はい」チーズはそう言ってコンブに近付き、そのままくっついてしまいました。そうです、それはねんど同士をくっつけたり、ガム同士をくっつけるのに似ていました。マークは声も立てずにおどろくばかり。ただの木のように直立したまま動けなくなってしまいました。その時にはふたりの体はただの玉のようになってしまい、もうどこが顔なのか、体なのか分からなくなってしまいました。チーズなのかコンブなのか分からない物体はグネグネと動き、しばらくたったあとに止まりました。そしてまたグネグネと動くと二つに分かれて、それぞれがチーズとコンブに戻りました。
「そうか、わかった。マークが正しき心と力を持っているということがね。ああ、君をおどろかせてしまったね。まずは私達の事を言うべきかね。信じられない事かもしれないけれど、私達は死んでいる存在なのね。とはいっても半分死んでいるだけで、死んでいるとは言いきれないのね。つまり生きてもいないし、死んでもいないといえるけんど、生きているし、死んでいるともいえるんね。チーズは精霊という表現を使ったようだけれど、まあそう言えば分かりやすいかね。でも少し難しいよね」
「はい、とても・・・」
「つまり私やチーズは君からみると精神体なのね。だから精神同士をつなげることができるんだよ」
「そうなのですか」
「そこで問題なのは、君が私達の事を見えるということなんだ。チーズから何か聞いたよね」
「そう言えば、初めてチーズさんと会ったとき、チーズさんはとてもおどろいていました」
「チーズが君をここに連れてきたのがなぜなのか、これから話をするね。この森はね、私達のような特別な存在を生み出すための森なのね。遥か昔、悪魔たちがはこびっていた時代にね、神様が悪魔たちに対抗させるために私達を作ったんね。私がここの森の主にされてね、それからは死ねないのね。いや、もう死んでいるのかね」
「つまり俺達は天使のようなものなのさ。人間がこれを知ったらびっくりするだろうな」
「はぁ・・・」マークは話が飛びすぎてついていけなくなってしまいました。これは夢なのではないだろうかとさえ思えました。
「それでな・・・」
「ちょっと待ってください。私はもう頭がこんらんして、、、少し頭を整理する時間をください」
「仕方ないね、チーズ、案内してあげて」
チーズはマークにささやきました。
「俺達には時間が死ぬほどあるからな。別にあせる必要もないもんな」
それからチーズはマークを連れて歩き回りました。森の中を色々と案内して、暗くなると眠りました。まだ信じられないことばかりです。


 夢を見ました。ソーヤに会う夢です。遠い遠い国にいました。
マークはまだ旅をしていたのにソーヤと旅先で会ったのです。ソーヤは顔をクシャクシャにして喜び、マークに抱きついてきました。ソーヤの体はもう大人なのに顔はあの時のままでした。何か変だなと思ったとき、朝がやってきました。


◆森の二日目

 次の日、マークが起きると、目の前にチーズがいました。チーズはマークが起きるのを待っていたかのようにじぃーとマークを見ていました。
「おはようございます。チーズさんって眠ったりするのですか」
「おはよう、俺は死んでいるから眠らなくてもいいけれど、生きているから眠りたいときに眠る。けど、最近は忙しくて寝ないことが多いかな」
それからチーズは一言言った後、少し笑って消えました。
「今日もコンブじっちゃんの所へ行きな」
マークは昨日のことが夢でなかったことを思い知らされました。 天使、悪魔、神、現実に本当に存在するなんて。マークはまだ心の準備が出来ていませんでしたが、コンブに会いにいきました。それでも昨日の話の続きを聞きたかったからです。
「おはよう、昨晩はよく眠れたかいね?」
「はい、よく眠れたと思います」
夢を見たくらいですからきっとよく眠っていたのでしょう。
「そうかい、昨日チーズからよく話を聞いたよ。親を探しているらしいね。私は君の親のことは知らないけれど、知る方法なら知っているね。知りたい?」
「はい、ぜひ教えてください」マークはコンブに近寄りました。
「こっちに来るね」コンブが歩きだしたので、マークも着いていきました。コンブとマークは小さな洞窟(マークにとってですが)に着きました。
「この中にはほこらがあってね、今から入ろうと思うねんど、君には小さくてこの洞窟には入れないね」
「ではどうすればいいのですか」
「大丈夫だよ、君の心だけをとりだして中に入るからね。いいですかい?」
「そうするとどうなるのですか」
「いいかい、ここは世界のあらゆる所とつながっている空間の入り口なのね。でもそれは現実ではないよ、入ればわかるね。じゃあ いくね」
「ちょっと待ってください、もちろん安全ですよね」
マークは不安になっていたので用心深くなっていました。そして、恐くなっていました。これからどんなことが起こるのかわからないのですから恐くなるのは当然です。
「もちろんね。心配はいらないね」
そう言われてもなお不安です。心を飛ばすなんて、帰ってこられるかわからないではないですか。
「・・・」
マークの不安そうな顔を見ながらコンブは言いました。
「この森の主が言うのだから安心ね、大丈夫ね、心配いらないね、じゃあ行くね」
そう言い、コンブはマークの体に手をおきました。そしてマークの心を取り出すと、洞窟の中に入れました。
「あっ」マークは体から出されて、暗い穴のなかへ入っていきました。何だか変な気分でした。


◆マーク、心の世界へ

暗い・・・真っ暗だ・・・何も見えない
何も聞こえない・・・
ここからどこへ行けばいいのでしょう・・・


・・・・


マークは始め、体の外に出たむきだしの心をうまくコントロールすることができませんでした。心ではなく、体で動こうとしていたからです。でもそのうち不思議と動くということがわかってきました。それは心を開き、想うことなのです。想うだけで自由になれる。それがわかったときマークの体は空を行き交う葉っぱのように重さがなくなり、全くの自由になりました。もうどこまでもどこまでも行けるような気がしました。そう思ったときマークはソーヤの顔を思い浮べていました。
『いまソーヤはどこで何をしているのでしょう。どこまでも行けるのならソーヤに会いたい。すぐにでも・・・』そう思ったのです。
心が自由ならきっと会いにいけるはず。

 マークは心を飛ばしてみました。心を飛ばしている間、マークはあらゆる世界を超えたように感じました。それが空間なのか、時間なのか、それともマークの知らない何かなのかはわかりませんでしたが、様々な音や色が心のなかに入り、また通り過ぎていきました。

 マークはいつのまにかソーヤの所に着いていました。久しぶりに会ったソーヤは背が少し高くなっていました。そして、女の子と一緒に遊んでいました。どうやら新しいお友達が出来たようです。マークはソーヤに話し掛けてみました。
「ソーヤ、ソーヤ。」マークはソーヤを呼びました。しかしマークの心の声は届きませんでした。ソーヤはマークには気付かず、友達と遊んでいました。マークはソーヤに触ろうとしました。けれど、体をすりぬけるばかりで触ることはできませんでした。
マークはコンブの言ったことを思い出しました。
『でもそれは現実ではないよ。』
現実ではないとはどういうことでしょう。ここはマークの想像の世界なのでしょうか。それとも異次元の世界なのでしょうか。マークには何も分かりませんでしたが、この世界はマークの生きている世界というよりは、チーズやコンブの生きている世界のように思いました。そして、心を飛ばす事によって親を探すのだということが分かりました。しかし、親の事を知らずにどうやって探せばいいのでしょう。それは分かりませんでしたが、心を色々な所に飛ばして世界中を飛び回りました。飛び回るたびに様々な音や色を感じました。マークは飛びながらこれはひょっとしたら一つの音楽や絵の上を歩いているのではないかと考えました。それにしてもなんて気持ちがいいのでしょう。風を感じることが出来ないのがとても残念です。

 そのうちマークは激しい疲れを感じました。慣れない事をしたせいでしょうか。マークは心を自由にしたまま帰ろうとしました。しかしその途中でマークの目の前は真っ暗になってしまいました。

 気がつくとマークは洞窟のなかにいました。目の前には石でできた だんがあり、そこには古びた剣がささっていました。『これが コンブさんの言ったほこら?』そう思ったとき後からコンブがやって来ました。
「疲れたから戻ってきたようね。このまま心を戻すからじっとしてるね」
マークは今まで気付いていませんでしたが、まだ心だけの状態でした。コンブはマークの心を優しく抱いてそーっと体に戻しました。

 もう一度目の前が真っ暗になった後、マークはまた目を覚ましました。
今度は洞窟の前、そしてコンブの前にいました。
「帰ってきたね?」
「何かとても素晴らしいものを感じました。口で説明するのは難しいのですが、とても身軽になった感じですね」
「それはもちろんね。体から離したのだからね」
「そうですね」
「多分今日は見つけられなかったと思うね」
「はい、まだ慣れなくて」
「そうね、これは口で説明してもコントロールについては自分で学ばなければね。ヒント、そこは世界のあらゆる入り口なのね。もう一つ。そこは心の世界、りきむ必要は全くないのね」
「はい、あのー、あそこはあなたたちの世界なのですか」
「んー、近いけどね。同じではないよ、ほら」そう言ってコンブはマークに触りました。
「私らには肉体があるね、そこの世界、心だけね」
「はい」
「それにそこの世界見るだけね、触ることもできないし、音のない世界ね。んー、心だけの私と君の間の世界というところですかね」
「音のない?私はたくさんの音を聞きましたよ?」
「聞いた?ああ、それは音ではないのね。私達はそれをメオと呼んでいるのね」
「メオですか」
「うん、メオっていうのは心の世界での音のようなものなのね。それは決して耳では聞くことの出来ない、うーん、・・・たとえば指を振るよね」
「はい」
「指を振っても音は出ないよね」
「出ません」
「それがメオなのね」
「ん?」
「指を振った時にメオの音が出ているの」
「はあ」
「メオは生命の音なのね。生きているものが出す命のメロディーなのね」
「そうですか」マークは何だか難しいなと思いながら聞いていました。
「まあ、疲れているだろうから休むといいね。ほら」
そう言ってコンブはお日さまの方を指しました。お日さまは今にも沈みそうで、森の木々たちは西日を浴びて金色に輝いていました。
「ああ、もうこんな時間になっていたのですか。いつの間に・・・ですね」
「ははは、ねっ、ははは」コンブは笑いながら消えてしまいました。いったい何がおかしかったのでしょう。
「あっ、・・・・チーズさんもコンブさんもすぐに消えてしまうのですね。それにしてもなんて綺麗な色でしょう」
マークは西日を浴びて金色に輝く木々の頭の部分を見あげながら言いました。
「俺が何だって」すぐさまチーズが現われました。
「そしてすぐに現われるのですね」マークはいまコンブを呼べばコンブは姿を現すのかなと思いました。
「広場に行くんだろ」
「はい」
「どうだった」
「何だかおどろく事ばかりです。今日は少し疲れてしまいました」
「そうか、飛び方はわかったか」
「ええ、なんだか変な気分です」
「ははっ、一回目で飛べるなんてね、才能があるじゃん。俺の目に狂いはなかったということかな」
「才能って一体、何の才能ですか」
「えっ?ああ、えーと、これ言ってもいいのかな?んー、コンブじっちゃんに聞いてくれ。悪いな、結構秘密が多いんだよここは」チーズはまたヒゲをたらしました。
「特別な所だからですか」
「そう、それ。特別だからな」そう言いながらもチーズはとてもすまなそうな顔をしました。

 広場に着きました。昨日と同じように様々な動物たちがいます。マークは歩きながらなるべくあいさつをしました。
広場の中央ではコンブが眠っていました。
「ほらね、別に眠る必要なんてないけど眠るんだ」
「へえー、それではコンブさんは起きているのですか」
「いや、眠ってるよ。寝るときは寝ているんだ」
「あまりよくわかりません」
「んー、そうだな、説明が難しいんだよな。それよりここらで少し他の連中と話をしてみなよ。結構おもしろいと思うぜ」
「そうですね」
「おーい、みんな、ちょっと来いよ」
そう言うとそこらにいた動物たちが集まってきました。森に来た久しぶりの客にみんな興味津々だったのです。特にペンギンなんかは目を宝石のように輝かせてマークに寄ってきました。
森の仲間たちの紹介が始まりました。そこでマークは少しみんなとお話をしました。ラクダがここにいることをどうしても聞きたかったのですが、自己紹介が始まってしまい、ラクダと話をすることができませんでした。
 何だかあっという間に一日が終わってしまいました。マークは今日行った心の世界を思い出しながら空を飛ぶってあんな感じなのかなと考えました。そしていつの間にか安らかな眠りの世界へと落ちていくのでした。

 夢を見ました。いつか土にめりこんだ木の王子さまが会いにくる夢です。彼は肌の薄黒い少年で、何だか幸せそうな顔をしながら地上の生活も悪くはないと言っていました。そしてマークの体をよじ登って話をしながら散歩をしました。どうやらソーヤの家に向かっているようでした。マークは夢だとは知らずソーヤに会える事に胸を高まらせていました。


◆森の三日目

 マークはいつものように太陽とともに起きました。朝はいつもと同じはずなのに、薄暗い森の中で見る太陽はとてもきれいに見えました。マークは体の上に何かが乗っている事に気が付きました。この重さはチーズではなさそうです。
「おはようございます。あなたはだれですか」マークには首がないので、体の上に乗られると見えないのです。
「おはよう、私はカツオ、みんなが君に興味を持っている。私も君に興味を持っている。なぜだか分かるかい」
「久しぶりのお客だからですか。それとも木なのに歩くからですか」
「両方とも正しい。しかし、もっと重大な事は、君がこの森に入ってきたということだ。分かるかい」
「ここが特別な所であることはチーズさんから聞きました」
「そういうことだ。つまり外からやってくる者がいないということだな」
「私が初めて来た外の者ですか」
「いや、それは違う。昔、人間が二人来た事があると聞いたことがある。人間が、だ」
「私は例外なのですか」
「いや、わからん。ただ、この森に入れること自体が特別であるといえる。どうやらこの森はある資格がないと見ることも、ましてや入ることもできないようなのだ」
「私は何者なのですか」
「それは自分でわかることだ、そのうちにね。そろそろ朝食でも食べにいくか」
「さようなら」
「では、また」マークの体から下りてきたカツオはサルでした。カツオは大きなお腹をたらしながらゆっくりと去っていきました。
マークは自分が一体何者なのか、なぜこの森に呼ばれたのかなど、わからないことだらけになってしまいました。マークは今日もコンブに会いに行きました。コンブは森の中央広場の切り株の上でラッコと何か話をしていました。

「前に海に行ったんですよ」
「ほう」
「そうしたら、私達ラッコ族は少ししかいないんですよ」
「うん」
「前に、確か10年くらい前見たときはもっとたくさんいたんですよ」
「シャチが増えたのかね」
「多少増えていました。しかし、人間がたくさん捕獲をしていたんですよ。ある者は毛皮に・・・ある者は動物園に連れて行かれて貝をたたく毎日・・・」
「そうか」
「ある者は故郷に帰りたいと言っていましたが、またある者は餌に不自由しないからここの方がいいと言っていまして、私は悲しくなりました」
「そうだね。ラッコは誇り高き種族・・・ん?」コンブは何かを見つけたようです。
「ん?」ラッコもつられて振り向きました。
「マークが来たね」
「ああ、あのマークさんですか。あの方もめずらしいかたですね」
「うん。私は彼から不思議な力を感じるよ」
そう言ってコンブは鼻をヒクヒクさせました。

「コンブさんおはようございます」
マークが来るとラッコはどいて、近くで見ていました。
「おはようです。一日休んだら落ちついたかいね」
「はい、落ちつきました。でもまだ、どれも信じられない夢のように感じます」
「そうだね。これは普通に暮らしているひとは知ることのないことだからね」
「そういう場所になぜ私がいるのでしょう」
マークはさっきカツオとした会話を思い出しながら言いました。
「君にはこれから大きな仕事をしてもらうね。それは君の心の中をみればわかることね。今日は私が君の中に入るね。私達は君から見ると精神体だと言ったのを覚えているかいね」
「心を一つにするのですか」
「そうね」
「そうですか、わかりましたよ!チーズさんはおとといコンブさんに心の声で話をしていたのですね」
「君は頭がいいね。でも細かい話をすると全く同化するということではないんだ。私達も肉体を持っているからね。もしこの肉体がないと自分を保つ事が難しいのね。失敗すると死が待っているから」
「恐いですね」
そう言いながらもマークは心を一つにできるなんて素晴らしいと思いました。
「そう、恐いね。私たちの世界には大きく分けて三つの状態があるね。生と半生と死だね。生は君達の世界、半生は私やチーズの世界、そして、死は目の前の世界ね」
「目の前に? 私達のまわりに死の世界があるのですか?」
「そうだよ、この森の中にいるとそれがよくわかるね。上を見てごらん」
マークは上を見上げました。
「木々の間から光の筋が見えるね。その光の中でおどっているものがあるね」
それはただのチリのようでした。
「それが死だと思えばいいね」
「このチリのようなものがですか?」
チリが死? マークにはよくわかりませんでした。
「そう、死とはチリのようなものなのね。君達は一つの物体であるけれど、それは海の底の砂が集まったようなものなのね」
「海の底の砂? よくわかりません。」マークは難しい顔をしました。
コンブはマークに当たってきました。マークの体からは葉っぱが一枚ヒラリと落ちてきました。
「君の体から落ちた葉は君だといえるかい?」
「うーん、あまりそう思えませんね」
「そうね、君達の体を何万にも何億にも分けてしまったら、君達は君達ではいられなくなる。君達はその細かいものが集まった生きものの集合体なのね」
「へえー、そうなのですか。では死ぬということはその集合体が散らばってしまうということなのですか」
「そうね、だからチリのようなものなのね。今も世界中で死が飛びまわっているよ」
マークは改めてまわりを見渡しました。森の中、何本もの光の衣が下りてきて、森の空気を照らしています。そしてその中でチリがフワフワと浮かんでいました。
しかしもっとよく見るとチリのほかにその光の衣の中で細かい細かい白い何かが飛んでいました。これが命のかけら、そして死のかけらなのでしょうか。
「何か見えるね?」
コンブはその細い目をもっと細めながら言いました。
「何かが見えます。何かが、ふふっ」
マークは自分で変なことを言っているのに気が付きました。この世のものはすべて『何か』なんだ。だから『何か』が見えて当たり前なんだと思いました。
「どうしたね」
「私は少しずつわかってきました。なんと説明していいのか、うまく言えないのですけれど、少しわかったのです」
「そうだよ。わかったって事は口に出すことばかりではないのね。心のなかにしまっておいてもいいものね。そこで熟成するかもしれんしね」
「ありがとうございます」マークはまた一つ物知りになりました。
「いいえ、私は君に少しかけているのね。君はこの世界をどんどん変えていくような気がするね。その素質が十分すぎるほどあるね。そのための協力はおしまないね」
「ええ、世の中をどんどん良くしていきたいです」
「今日は今日のことを考えるといいね。今晩は君の心のなかに入るね。そしてどこまでその素質があるのかためさせてもらうね」
「はい」
太陽はいつの間にか真上にきており、森のなかも暖かくなってきていました。その頃には広場もだいぶにぎやかになっており、その中にはあのラクダもいました。マークはラクダに話し掛けました。
「こんにちはラクダさん」
「こんにちビ、僕はワタガシ」
「私はマークです」
「知ってるビ。君はここでは有名だもビ。すぐに噂で広まったビ。ホント不思議だなあ、どうして木が歩くビ。新種? それとも突然変異かビ?」
「それはわかりません。あの・・・」
「はビ?」
「あなたはなぜここに住んでいるのですか。あなたの住む所は砂漠ではないですか。どうしたって森の中に住むのは変ではないですか」
「わからんビ。ずっとずっと先ゾ様の頃からここにいると聞いているビ。それに住める所に住んでいるならどこに住んでもいいと思うビ」
「そうですか。私は砂漠の中で育ちました。だから砂漠に住んでいるひとたちはよく知っているのです。こんな所でラクダ族に会えるなんてびっくりです」
しかもワタガシはマークの故郷の砂漠に住んでいるラクダと同じフタコブラクダ族だったのです。
「ふーん、砂漠かビ、僕はここで生まれたから砂漠はわからんビ」
「砂がいっぱいあってね」「いっぱいあるビ?」
「すごく暑いのです」「僕暑いの嫌いだビー」
「たまに大雨が降ってきてね」「雨だビか」
「雨の日はお祭りなのです」「お祭り?僕お祭り大好きだビー」
ワタガシは足をカタカタ揺らしておどってみました。するとそれをみていた広場の動物たちはドッと笑いました。
「ワタガシいいぞ、もっとおどれい」
「ワタガシちゃんカッコイイーー」「ヒューヒュー」
ワタガシは何だかイイ気分になって今度は体をまわしながらおどり続けました。マークもうれしくなって体を揺らしました。
それを見たみんなもそれぞれおどり出してしまいました。広場はダンス会場になりました。マークの体から落ちる葉が広場を色づけ、会場を盛りあげました。
結局その日は太陽がさようならのあいさつをするまでみんなはおどり、笑い、楽しんだのでした。森の中でひびく楽しそうな声は一番星の耳のなかに心地よく入り、夜空は輝きを増しました。まるで星達も一緒にダンスを楽しんでいるようでした。その時コンブはマークの心の中に入るのはよそうと思いました。


◆森の四日目

 次の日、マークが起きると、目の前にコンブがいました。
「あっコンブさんおはようございます」
「おはようね。昨日は君の心のなかに入るといったけれど、考え直したね。昨日君が広場をダンス会場にしたね。そこで私考えたね。マークにこの世界を昨日のダンス会場のようにしてほしいね。それに、君の一生のことは君が決めるべきね。私ここの主なのに恥ずかしいね。昨日言ったこと忘れてね」
「いいえ、コンブさんが昨日言ったことはとても素晴らしい事でした。私は今まで知らなかったこと、たくさんありました。昨日たくさんわかりました」
「そうね」
コンブはそれからだまり込んでしまいました。何か考えているようでした。
マークはしばらく待ったあとにそっとコンブに話し掛けました。
「コンブさん・・・」
「マーク君、私考えたね。君は親を探していると言ったね。私マークの親を探す手伝いを少しするね。そして君には友達がいるね、チーズから聞いたね。それで、すべてが終わった時にここにもう一度来てほしいね」
「・・・はい、わかりました。必ず来ます」
「私には寿命がないし、気長に待っているね」
そう言ってコンブは悲しそうな目をしました。
「はい」
「チーズ」
「はい」チーズがやって来ました